まれて書を書く事もあるが、自己流で、別に手習いをした事は無い。真《ほんと》の恥を書くのである。骨董《こっとう》も好きであるが所謂《いわゆる》骨董いじりではない。第一金が許さぬ。自分の懐都合《ふところつごう》のいい物を集めるので、智識は悉無《しつむ》である。どこの産だとか、時価はどの位だとか、そんな事は一切知らぬ。然し自分の気に入らぬ物なら、何万円の高価な物でも御免《ごめん》を蒙《こうむ》る。
 明窓浄机《めいそうじょうき》。これが私の趣味であろう。閑適を愛するのである。
 小さくなって懐手《ふところで》して暮したい。明るいのが良い。暖かいのが良い。
 性質は神経過敏の方である。物事に対して激しく感動するので困る。そうかと思うと、又神経遅鈍な処もある。意志が強くて押える力のある為めと云うのでは無かろう。全く神経の感じの鈍い処が何処《どこ》かにあるらしい。
 物事に対する愛憎《あいぞう》は多い方である。手廻りの道具でも気に入ったの、嫌《きら》いなのが多いし、人でも言葉つき、態度、仕事の遣《や》り口《くち》などで好きな人と嫌いな人がある。どんなのが好きで、どんなのが嫌いかと云う事は、何《いず
前へ 次へ
全10ページ中7ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
夏目 漱石 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング