私の考えでは薔薇のなかに香水があると云った方が適当と思います。もっともこの時間及びあとから御話をする空間と云うのは大分むずかしい問題で、哲学者に云わせると大変やかましいものでありますから、私のような粗末な考えを好い加減に云う時は、あまり御信じにならん方がよいかも知れませんが、――しかしあまり信じなくってもいけません。まず演説の終るまで信じておって、御宅へ御帰りになる頃に信じなくなるのがちょうどいい加減であろうと思います。
次に今云う意識の連続――すなわち甲が去って乙がくるときに、こう云う場合がある。まず甲を意識して、それから乙を意識する。今度はその順を逆にして、乙を意識してから甲に移る。そうしてこの両《ふた》つのものを意識する時間を延しても縮めても、両意識の関係が変らない。するとこの関係は比較的時間と独立した関係であって、しかもある一定の関係であるという事がわかる。その時に吾人はこれを時間の関係に帰着せしむる事ができない事を悟って、これに空間的関係の名を与えるのであります。だからしてこれも両意識の間に存する一種の関係であって、意識そのものを離れて空間なるものが存在しているはずがない。
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