ているので、顔は判然《はっきり》しなかったが、白縮緬《しろちりめん》の帯だけはすぐ彼の眼に映じた。その瞬間にすぐこれが田口という須永の叔父さんだろうという感じが敬太郎の頭に働いた。けれども事が余り意外なので、すぐ挨拶《あいさつ》をする余裕《よゆう》も出ず少しはあっけに取られた気味で、ぼんやりしていた。その上自分をはなはだ若く考えている敬太郎には、四十代だろうが五十代だろうが乃至《ないし》六十代だろうがほとんど区別のない一様《いちよう》の爺さんに見えるくらい、彼は老人に対して親しみのない男であった。彼は四十五と五十五を見分けてやるほどの同情心を年長者に対して有《も》たなかったと同時に、そのいずれに向っても慣れないうちは異人種のような無気味《ぶきみ》を覚えるのが常なので、なおさら迷児《まご》ついたのである。しかし相手は何も気にかからない様子で、「何か用ですか」と聞いた。丁寧《ていねい》でもなければ軽蔑《けいべつ》でもない至って無雑作《むぞうさ》なその言葉つきが、少し敬太郎の度胸を回復させたので、彼はようやく自分の姓名を名乗ると共に手短かく来意を告げる機会を得た。すると年嵩《としかさ》な男は
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