から、敬太郎はすぐそれを自分の袂《たもと》の中に蔵《かく》した。彼はそれを持って夕食後散歩かたがた外へ出かける気で寒い梯子段《はしごだん》を下まで降り切ると、須永《すなが》から電話が掛った。
今日内幸町から従妹《いとこ》が来ての話に、叔父は四五日内に用事で大阪へ行くかも知れないそうだから、余り遅くなってはと思って、立つ前に会って貰《もら》えまいかと電話で聞いて見たら、宜《よろ》しいという返事だから、行く気ならなるべく早く行った方がよかろう。もっとも電話の上に咽喉《のど》が痛いので、詳しい話はできなかったから、そのつもりでいてくれというのが彼の用向であった。敬太郎は「どうもありがとう。じゃなるべく早く行くようにするから」と礼を述べて電話を切ったが、どうせ行くなら今夜にでも行って見ようという気が起ったので、再び三階へ取って返してこの間|拵《こし》らえたセルの袴《はかま》を穿《は》いた上、いよいよ表へ出た。
曲り角へ来てポストへ手紙を入れる事は忘れなかったけれども、肝心《かんじん》の森本の安否はこの時すでに敬太郎の胸に、ただ微《かす》かな火気《ほとぼり》を残すのみであった。それでも状袋が
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