郵便函の口を滑《すべ》って、すとんと底へ落ちた時は、受取人の一週間以内に封を披《ひら》く様を想見して、満更《まんざら》悪い心持もしまいと思った。
それから電車へ乗るまではただ一直線にすたすた歩いた。考も一直線に内幸町の方を向いていたが、電車が明神下《みょうじんした》へ出る時分、何気なく今しがた電話口で須永から聞いた言葉を、頭の内で繰り返して見ると、覚えずはっと思うところが出て来た。須永は「今日内幸町からイトコが来て」とたしかに云ったが、そのイトコが彼の叔父さんの子である事は疑うまでもない。しかしその子が男であるか女であるかは不完全な日本語のまるで関係しないところである。
「どっちだろう」
敬太郎は突然気にし始めた。もしそれが男だとすれば、あの後姿の女についての手がかりにはならない。したがって女は彼の好奇心を徒《いたず》らに刺戟《しげき》しただけで、ちっとも動いて来ない。しかしもし女だとすると、日といい時刻といい、須永の玄関から上り具合といい、どうも自分より一足先へ這入《はい》ったあの女らしい。想像と事実を継《つ》ぎ合わせる事に巧みな彼は、そうと確かめないうちに、てっきりそうときめて
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