ったので、幹はそれほど古くないが、下宿の窓などに載《の》せておいて朝夕《あさゆう》眺《なが》めるにはちょうど手頃のものです。あれを献上《けんじょう》するからあなたの室《へや》へ持っていらっしゃい。もっとも雷獣《らいじゅう》とそうしてズクは両人共|極《きわ》めて不風流|故《ゆえ》、床の間の上へ据《す》えたなり放っておいて、もう枯らしてしまったかも知れません。それから上り口の土間の傘入《かさいれ》に、僕の洋杖《ステッキ》が差さっているはずです。あれも価格《ねだん》から云えばけっして高く踏めるものではありませんが、僕の愛用したものだから、紀念のため是非あなたに進上したいと思います。いかな雷獣とそうしてズクもあの洋杖をあなたが取ったって、まさか故障は申し立てますまい。だからけっして御遠慮なさらずと好い。取って御使いなさい。――満洲ことに大連ははなはだ好い所です。あなたのような有為の青年が発展すべき所は当分ほかに無いでしょう。思い切って是非いらっしゃいませんか。僕はこっちへ来て以来満鉄の方にもだいぶ知人ができたから、もしあなたが本当に来る気なら、相当の御世話はできるつもりです。ただしその節は前も
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