に僕を誤解しないように願います」
森本は次に自分が今大連で電気公園の娯楽がかりを勤めている由《よし》を書いて、来年の春には活動写真買入の用向を帯びて、是非共出京するはずだから、その節は御地で久しぶりに御目にかかるのを今から楽《たのしみ》にして待っているとつけ加えていた。そうしてその後《あと》へ自分が旅行した満洲《まんしゅう》地方の景況をさも面白そうに一口ぐらいずつ吹聴《ふいちょう》していた。中で最も敬太郎を驚ろかしたのは、長春《ちょうしゅん》とかにある博打場《ばくちば》の光景で、これはかつて馬賊の大将をしたというさる日本人の経営に係るものだが、そこへ行って見ると、何百人と集まる汚ない支那人が、折詰のようにぎっしり詰って、血眼《ちまなこ》になりながら、一種の臭気《しゅうき》を吐き合っているのだそうである。しかも長春の富豪が、慰《なぐさ》み半分わざと垢《あか》だらけな着物を着て、こっそりここへ出入《しゅつにゅう》するというんだから、森本だってどんな真似《まね》をしたか分らないと敬太郎は考えた。
手紙の末段には盆栽《ぼんさい》の事が書いてあった。「あの梅の鉢は動坂《どうざか》の植木屋で買
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