。僕の室《へや》に置いてある荷物を始末したら――行李《こり》の中には衣類その他がすっかり這入《はい》っていますから、相当の金になるだろうと思うんです。だから両人にあなたから右を売るなり着るなりしろとおっしゃっていただきたい。もっとも彼雷獣は御承知のごとき曲者《くせもの》故《ゆえ》僕の許諾を待たずして、とっくの昔にそう取計っているかも知れない。のみならず、こっちからそう穏便《おんびん》に出ると、まだ残っている僕の尻を、あなたに拭って貰いたいなどと、とんでもない難題を持ちかけるかも知れませんが、それにはけっして取り合っちゃいけません。あなたのように高等教育を受けて世の中へ出たての人はとかく雷獣|輩《はい》が食物《くいもの》にしたがるものですから、その辺《へん》はよく御注意なさらないといけません。僕だって教育こそないが、借金を踏んじゃ善《よ》くないくらいの事はまさかに心得ています。来年になればきっと返してやるつもりです。僕に意外な経歴が数々あるからと云って、あなたにこの点まで疑われては、せっかくの親友を一人失くしたも同様、はなはだ遺憾《いかん》の至《いたり》だから、どうか雷獣ごときもののため
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