静かにその影を見送って、御祖父《おじい》さんの若い時分の話というのを思い出しました。叔父さんは固《もと》より御存じでしょう、御祖父さんが昔の通人のした月見の舟遊《ふねあそび》を実際にやった話を。僕は母から二三度聞かされた事があります。屋根船を綾瀬川《あやせがわ》まで漕《こ》ぎ上《のぼ》せて、静かな月と静かな波の映り合う真中に立って、用意してある銀扇《ぎんせん》を開いたまま、夜の光の遠くへ投げるのだと云うじゃありませんか。扇の要《かなめ》がぐるぐる廻って、地紙《じがみ》に塗った銀泥《ぎんでい》をきらきらさせながら水に落ちる景色は定めてみごとだろうと思います。それもただの一本ならですが、船のものがそうがかりで、ひらひらする光を投げ競《きそ》う光景は想像しても凄艶《せいえん》です。御祖父《おじい》さんは銅壺《どうこ》の中に酒をいっぱい入れて、その酒で徳利《とくり》の燗《かん》をした後《あと》をことごとく棄《す》てさしたほどの豪奢《ごうしゃ》な人だと云うから、銀扇の百本ぐらい一度に水に流しても平気なのでしょう。そう云えば、遺伝だか何だか、叔父さんにも貧乏な割にはと云っては失礼ですが、どこかに贅
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