を、姉へ御土産として持って来てくれればいいがと思った。

        十一

 次のは明石《あかし》から来たもので、前に比べると多少複雑なだけに、市蔵の性格をより鮮《あざ》やかに現わしている。
「今夜ここに来ました。月が出て庭は明らかですが、僕の部屋は影になってかえって暗い心持がします。飯を食って煙草《たばこ》を呑んで海の方を眺《なが》めていると、――海はつい庭先にあるのです。漣《さざなみ》さえ打たない静かな晩だから、河縁《かわべり》とも池の端《はた》とも片のつかない渚《なぎさ》の景色《けしき》なんですが、そこへ涼み船が一|艘《そう》流れて来ました。その船の形好《かっこう》は夜でよく分らなかったけれども、幅の広い底の平たい、どうしても海に浮ぶものとは思えない穏《おだ》やかな形を具《そな》えていました。屋根は確かあったように覚えます。その軒から画の具で染めた提灯《ちょうちん》がいくつもぶら下がっていました。薄い光の奥には無論人が坐《すわ》っているようでした。三味線の音も聞こえました。けれども惣体《そうたい》がいかにも落ちついて、滑《すべ》るように楽しんで僕の前を流れて行きました。僕は
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