。ただ叔父さんがこう云う事に明らかだから、あるいは知っておいでかも知れないと思って、ちょっと蛇足《だそく》に書き添えただけです。僕の御報知したいのは実はこの広い土間ではなかったのです。土間の上に下りていた御婆《おばあ》さんが問題だったのです。御婆さんは二人いました。一人は立って、一人は椅子《いす》に腰をかけていました。ただし両方ともくりくり坊主です。その立っている方が、僕らが這入《はい》るや否《いな》や、友人の顔を見て挨拶《あいさつ》をしました。そうして『おや御免《ごめん》やす。今八十六の御婆さんの頭を剃《そ》っとるところだすよって。――御婆さんじっとしていなはれや、もう少しだけれ。――よう剃ったけれ毛は一本もありゃせんよって、何も恐ろしい事ありゃへん』と云いました。椅子に腰をかけた御婆さんは頭を撫《な》でて『大きに』と礼を述べました。友人は僕を顧《かえり》みて野趣があると笑いました。僕も笑いました。ただ笑っただけではありません。百年も昔の人に生れたような暢気《のんびり》した心持がしました。僕はこういう心持を御土産《おみやげ》に東京へ持って帰りたいと思います」
 僕も市蔵がこういう心持
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