るためではなかろうかという疑も起った。僕は突然極端の出来事を予想して、一人身の旅行を危ぶみ始めた。
「おれもいっしょに行こうか」
「叔父さんといっしょじゃ」と市蔵が苦笑した。
「いけないかい」
「平生《ふだん》ならこっちから誘っても行って貰いたいんだが、何しろいつどこへ立つんだか分らない、云わば気の向きしだい予定の狂う旅行だから御気の毒でね。それに僕の方でもあなたがいると束縛があって面白くないから……」
「じゃ止《よ》そう」と僕はすぐ申し出を撤回した。

        九

 市蔵が帰った後《あと》でも、しばらくは彼の事が変に気にかかった。暗い秘密を彼の頭に判で押した以上、それから出る一切の責任は、当然僕が背負《しょ》って立たなければならない気がしたからである。僕は姉に会って、彼女の様子を見もし、また市蔵の近況を聞きもしたくなった。茶の間にいた妻《さい》を呼んで、相談かたがた理由《わけ》を話すと、存外物に驚ろかない妻は、あなたがあんまり余計なおしゃべりをなさるからですよと云って、始めはほとんど取り合わなかったが、しまいに、なんで市《いっ》さんに間違があるもんですか、市さんは年こそ若い
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