が、あなたよりよっぽど分別のある人ですものと、独《ひと》りで受合っていた。
「すると市蔵の方で、かえっておれの事を心配している訳になるんだね」
「そうですとも、誰だってあなたの懐手《ふところで》ばかりして、舶来のパイプを銜《くわ》えているところを見れば、心配になりますわ」
 そのうち子供が学校から帰って来て、家《うち》の中が急に賑《にぎ》やかになったので、市蔵の事はつい忘れたぎり、夕方までとうとう思い出す暇がなかった。そこへ姉が自分の方から突然尋ねて来た時は、僕も覚えず冷《ひや》りとした。
 姉はいつもの通り、家族の集まっている真中に坐って、無沙汰《ぶさた》の詫《わび》やら、時候の挨拶《あいさつ》やらを長々しく妻《さい》と交換していた。僕もそこに座を占めたまま動く機会を失った。
「市蔵が明日《あす》から旅行するって云うじゃありませんか」と僕は好い加減な時分に聞き出した。
「それについてね……」と姉はやや真面目《まじめ》になって僕の顔を見た。僕は姉の言葉を皆まで聞かずに、「なに行きたいなら行かしておやんなさい。試験で頭をさんざん使った後《あと》だもの。少しは楽もさせないと身体《からだ》の
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