た。僕はその時市蔵の事を思い出して、こういう苦《にが》い真理を承《うけたま》わらなければならない我々日本人も随分気の毒なものだが、彼のようにたった一人の秘密を、攫《つか》もうとしては恐れ、恐れてはまた攫もうとする青年は一層|見惨《みじめ》に違あるまいと考えながら、腹の中で暗に同情の涙を彼のために濺《そそ》いだ。
これは単に僕の一族内の事で、君とは全く利害の交渉を有《も》たない話だから、君が市蔵のためにせっかく心配してくれた親切に対する前からの行《ゆき》がかりさえなければ、打ち明けないはずだったが、実を云うと、市蔵の太陽は彼の生れた日からすでに曇っているのである。
僕は誰にでも明言して憚《はば》からない通り、いっさいの秘密はそれを開放した時始めて自然に復《かえ》る落着《らくちゃく》を見る事ができるという主義を抱《いだ》いているので、穏便とか現状維持とかいう言葉には一般の人ほど重きを置いていない。したがって今日《こんにち》までに自分から進んで、市蔵の運命を生れた当時に溯《さかのぼ》って、逆に照らしてやらなかったのは僕としてはむしろ不思議な手落と云ってもいいくらいである。今考えて見ると、
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