受けないでも、よく知っています。僕はただどうしてこうなったかその訳が知りたいのです。いいえ母でも、田口の叔母でも、あなたでも、みんなよくその訳を知っているのです。ただ僕だけが知らないのです。ただ僕だけに知らせないのです。僕は世の中の人間の中《うち》であなたを一番信用しているから聞いたのです。あなたはそれを残酷に拒絶した。僕はこれから生涯《しょうがい》の敵としてあなたを呪《のろ》います」
市蔵は立ち上った。僕はそのとっさの際に決心をした。そうして彼を呼びとめた。
五
僕はかつてある学者の講演を聞いた事がある。その学者は現代の日本の開化を解剖して、かかる開化の影響を受けるわれらは、上滑《うわすべ》りにならなければ必ず神経衰弱に陥《おち》いるにきまっているという理由を、臆面《おくめん》なく聴衆の前に曝露《ばくろ》した。そうして物の真相は知らぬ内こそ知りたいものだが、いざ知ったとなると、かえって知らぬが仏《ほとけ》ですましていた昔が羨《うらや》ましくって、今の自分を後悔する場合も少なくはない、私の結論などもあるいはそれに似たものかも知れませんと苦笑して壇を退《しり》ぞい
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