受けた。
僕がこの目的を果《はた》すために市蔵とこの座敷で会見を遂《と》げたのは、それから四日目の日曜の朝だと記憶する。彼は卒業試験間近の多忙を目の前に控えながら座に着いて、何試験なんかどうなったって構やしませんがと苦笑した。彼の説明によると、かねてその話は彼の母から何度も聞かされて、何度も決答をくり延ばした陳腐《ちんぷ》なものであった。もっとも彼のそれに対する態度は、問題の陳腐と反比例にすこぶる切なさそうに見えた。彼は最後に母から口説《くど》かれた時、卒業の上、どうとも解決するから、それまで待って呉《く》れろと母に頼んでおいたのだそうである。それをまだ試験も済まない先から僕に呼びつけられたので、多少迷惑らしく見えたばかりか、年寄は気が短かくって困ると言葉に出してまで訴えた。僕ももっともだと思った。
僕の推測では、彼が学校を出るまでとかくの決答を延ばしたのは、そのうちに千代子の縁談が、自分よりは適当な候補者の上に纏《まと》いつくに違ないと勘定《かんてい》して、直接に母を失望させる代りに、周囲の事情が母の意思を翻《ひるが》えさせるため自然と彼女に圧迫を加えて来るのを待つ一種の逃避手段
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