れが市蔵の僕と根本的に違うところである。

        三

 市蔵の卒業する二三カ月前、たしか去年の四月頃だったろうと思う。僕は彼の母から彼の結婚に関して、今までにない長時間の相談を受けた。姉の意思は固《もと》より田口の姉娘を彼の嫁として迎えたいという単純にしてかつ頑固《がんこ》なものであった。僕は女に理窟《りくつ》を聞かせるのを、男の恥のように思う癖があるので、むずかしい事はなるべく控えたが、何しろこういう問題について、できるだけ本人の自由を許さないのは親の義務に背《そむ》くのも同然だという意味を、昔風の彼女の腑《ふ》に落ちるように砕いて説明した。姉は御承知の通り極めて穏《おだ》やかな女ではあるが、いざとなると同じ意見を何度でもくり返して憚《はば》からない婦人に共通な特性を一人前以上に具《そな》えていた。僕は彼女の執拗《しつよう》を悪《にく》むよりは、その根気の好過《よす》ぎるところにかえって妙な憐《あわ》れみを催《もよお》した。それで、今親類中に、市蔵の尊敬しているものは僕よりほかにないのだから、ともかくも一遍呼び寄せてとくと話して見てくれぬかという彼女の請《こい》を快よく引
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