構成するように仕組んだら、新聞小説として存外面白く読まれはしないだろうかという意見を持《じ》していた。が、ついそれを試みる機会もなくて今日《こんにち》まで過ぎたのであるから、もし自分の手際《てぎわ》が許すならばこの「彼岸過迄」をかねての思わく通りに作り上げたいと考えている。けれども小説は建築家の図面と違って、いくら下手でも活動と発展を含まない訳に行かないので、たとい自分が作るとは云いながら、自分の計画通りに進行しかねる場合がよく起って来るのは、普通の実世間において吾々の企《くわだ》てが意外の障害を受けて予期のごとくに纏《まと》まらないのと一般である。したがってこれはずっと書進んで見ないとちょっと分らない全く未来に属する問題かも知れない。けれどもよし旨《うま》く行かなくっても、離れるともつくとも片《かた》のつかない短篇が続くだけの事だろうとは予想できる。自分はそれでも差支《さしつか》えなかろうと思っている。
[#地から2字上げ](明治四十五年一月此作を朝日新聞に公けにしたる時の緒言)


     風呂の後

        一

 敬太郎《けいたろう》はそれほど験《げん》の見えないこの
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