ぎる髪の所有者だったからである。この場合いつもの僕なら、千代ちゃんもついでに結《い》って御貰いなときっと勧めるところであった。しかし今の僕にはそんな親しげな要求を彼女に向って投げかける気が出悪《でにく》かった。すると偶然にも千代子の方で、何だかあたしも一つ結って見たくなったと云い出した。母は御結《おい》いよ久しぶりにと誘《いざ》なった。髪結《かみい》は是非御上げ遊ばせな、私始めて御髪《おぐし》を拝見した時から束髪《そくはつ》にしていらっしゃるのはもったいないと思っとりましたとさも結《い》いたそうな口ぶりを見せた。千代子はとうとう鏡台の前に坐った。
「何に結おうかしら」
髪結は島田を勧めた。母も同じ意見であった。千代子は長い髪を背中に垂れたまま突然|市《いっ》さんと呼んだ。
「あなた何が好き」
「旦那様《だんなさま》も島田が好きだときっとおっしゃいますよ」
僕はぎくりとした。千代子はまるで平気のように見えた。わざと僕の方をふり返って、「じゃ島田に結って見せたげましょうか」と笑った。「好いだろう」と答えた僕の声はいかにも鈍《どん》に聞こえた。
三十三
僕は千代子の
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