》いた。それは必竟《ひっきょう》腹の中に何も考えていない証拠《しょうこ》だとしか取れなかった。彼女は鎌倉へ行ってから水泳を自習し始めて、今では背の立たない所まで行くのが楽みだと云った。それを用心深い百代子が剣呑《けんのん》がって、詫《あや》まるように悲しい声を出して止《と》めるのが面白いと云った。その時母は半《なか》ば心配で半ば呆《あき》れたような顔をして、「何ですね女の癖にそんな軽機《かるはずみ》な真似をして。これからは後生《ごしょう》だから叔母さんに免じて、あぶない悪ふざけは止《よ》しておくれよ」と頼んでいた。千代子はただ笑いながら、大丈夫よと答えただけであったが、ふと縁側《えんがわ》の椅子に腰を掛けている僕を顧《かえり》みて、市《いっ》さんもそう云う御転婆《おてんば》は嫌《きらい》でしょうと聞いた。僕はただ、あんまり好きじゃないと云って、月の光の隈《くま》なく落ちる表を眺《なが》めていた。もし僕が自分の品格に対して尊敬を払う事を忘れたなら、「しかし高木さんには気に入るんだろう」という言葉をその後《あと》にきっとつけ加えたに違ない。そこまで引き摺《ず》られなかったのは、僕の体面上ま
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