見ても、どうもほかの名はつけ悪《にく》いようである。それなら僕がそれほど千代子に恋していたのだろうか。問題がそう推移すると、僕も返事に窮《きゅう》するよりほかに仕方がなくなる。僕は実際彼女に対して、そんなに熱烈な愛を脈搏《みゃくはく》の上に感じていなかったからである。すると僕は人より二倍も三倍も嫉妬深《しっとぶか》い訳になるが、あるいはそうかも知れない。しかしもっと適当に評したら、おそらく僕本来のわがままが源因なのだろうと思う。ただ僕は一言《いちごん》それにつけ加えておきたい。僕から云わせると、すでに鎌倉を去った後《あと》なお高木に対しての嫉妬心がこう燃えるなら、それは僕の性情に欠陥があったばかりでなく、千代子自身に重い責任があったのである。相手が千代子だから、僕の弱点がこれほどに濃く胸を染めたのだと僕は明言して憚《はばか》らない。では千代子のどの部分が僕の人格を堕落させるだろうか。それはとても分らない。あるいは彼女の親切じゃないかとも考えている。

        三十一

 千代子の様子はいつもの通り明《あけ》っ放《ぱな》しなものであった。彼女はどんな問題が出ても苦もなく口を利《き
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