も気に留めなかった。作の方ではいったん起《た》って梯子段《はしごだん》の傍《そば》まで行って、もう降りようとする間際《まぎわ》にきっと振り返って、千代子の後姿《うしろすがた》を見た。僕は自分が鎌倉で高木を傍《そば》に見て暮した二日間を思い出して、材料がないから何も考えないと明言した作に、千代子というハイカラな有毒の材料が与えられたのを憐《あわ》れに眺《なが》めた。
「高木はどうしたろう」という問が僕の口元までしばしば出た。けれども単なる消息の興味以外に、何かためにする不純なものが自分を前に押し出すので、その都度《つど》卑怯だと遠くで罵《ののし》られるためか、つい聞くのをいさぎよしとしなくなった。それに千代子が帰って母だけになりさえすれば、彼の話は遠慮なくできるのだからとも考えた。しかし実を云うと、僕は千代子の口から直下《じか》に高木の事を聞きたかったのである。そうして彼女が彼をどう思っているか、それを判切《はっきり》胸に畳み込んでおきたかったのである。これは嫉妬《しっと》の作用なのだろうか。もしこの話を聞くものが、嫉妬だというなら、僕には少しも異存がない。今の料簡《りょうけん》で考えて
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