代子に今日これからまた鎌倉へ帰るのかと尋ねた。
「泊って行くわ」
「どこへ」
「そうね。内幸町へ行っても好いけど、あんまり広過ぎて淋《さむ》しいから。――久しぶりにここへ泊ろうかしら、ねえ叔母さん」
僕には千代子が始めから僕の家に寝るつもりで出て来たように見えた。自白すれば僕はそこへ坐って十分と経たないうちに、また眼の前にいる彼女の言語動作を一種の立場から観察したり、評価したり、解釈したりしなければならないようになったのである。僕はそこに気がついた時、非常な不愉快を感じた。またそういう努力には自分の神経が疲れ切っている事も感じた。僕は自分が自分に逆《さか》らって余儀なくこう心を働かすのか。あるいは千代子が厭《いや》がる僕を無理に強いて動くようにするのか。どっちにしても僕は腹立たしかった。
「千代ちゃんが来ないでも吾一さんでたくさんだのに」
「だってあたし責任があるじゃありませんか。叔母さんを招待したのはあたしでしょう」
三十
「じゃ僕も招待を受けたんだから、送って来て貰《もら》えば好かった」
「だから他《ひと》の云う事を聞いて、もっといらっしゃれば好《い》いのに」
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