「いいえあの時にさ。僕の帰った時にさ」
「そうするとまるで看護婦みたようね。好いわ看護婦でも、ついて来て上げるわ。なぜそう云わなかったの」
「云っても断られそうだったから」
「あたしこそ断られそうだったわ、ねえ叔母さん。たまに招待に応じて来ておきながら、厭《いや》にむずかしい顔ばかりしているんですもの。本当にあなたは少し病気よ」
「だから千代子について来て貰いたかったのだろう」と母が笑いながら云った。
 僕は母の帰るつい一時間前まで千代子の来る事を予想し得なかった。それは今改めてくり返す必要もないが、それと共に僕は母が高木について齎《もた》らす報道をほとんど確実な未来として予期していた。穏《おだ》やかな母の顔が不安と失望で曇る時の気の毒さも予想していた。僕は今この予期と全く反対の結果を眼の前に見た。彼らは二人とも常に変らない親しげな叔母|姪《めい》であった。彼らの各自《おのおの》は各自に特有な温《あたた》か味《み》と清々《すがすが》しさを、いつもの通り互いの上に、また僕の上に、心持よく加えた。
 その晩は散歩に出る時間を倹約して、女二人と共に二階に上《あが》って涼みながら話をした。僕
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