書いてある事が嫉妬《しっと》なのだか、復讐《ふくしゅう》なのだか、深刻な悪戯《いたずら》なのだか、酔興《すいきょう》な計略なのだか、真面目《まじめ》な所作なのだか、気狂《きちがい》の推理なのだか、常人の打算なのだか、ほとんど分らないが、何しろ華々《はなばな》しい行動と同じく華々しい思慮が伴なっているから、ともかくも読んで見ろと云った。僕は書物を借りて帰った。しかし読む気はしなかった。僕は読み耽《ふけ》らない癖に、小説家というものをいっさい馬鹿にしていた上に、友達のいうような事にはちっとも心を動かすべき興味を有《も》たなかったからである。
 この出来事をすっかり忘れていた僕は、何の気もつかずにそのゲダンケを今|棚《たな》の後《うしろ》から引き出して厚い塵《ちり》を払った。そうして見覚《みおぼえ》のある例の独乙字の標題に眼をつけると共に、かの文学好の友達と彼のその時の言葉とを思い出した。すると突然どこから起ったか分らない好奇心に駆《か》られて、すぐその一|頁《ページ》を開いて初めから読み始めた。中には恐るべき話が書いてあった。
 ある女に意《い》のあったある男が、その婦人から相手にされない
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