文学|好《ずき》の友達であった。僕はかつてこの男と小説の話をして、思慮の勝ったものは、万事に考え込むだけで、いっこう華《はな》やかな行動を仕切る勇気がないから、小説に書いてもつまらないだろうと云った。僕の平生からあまり小説を愛読しないのは、僕に小説中の人物になる資格が乏しいので、資格が乏しいのは、考え考えしてぐずつくせいだろうとかねがね思っていたから、僕はついこういう質問がかけて見たくなったのである。その時彼は机上にあったこの本を指《さ》して、ここに書いてある主人公は、非常に目覚《めざま》しい思慮と、恐ろしく凄《すさ》まじい思い切った行動を具《そな》えていると告げた。僕はいったいどんな事が書いてあるのかと聞いた。彼はまあ読んで見ろと云って、その本を取って僕に渡した。標題にはゲダンケという独乙字《ドイツじ》が書いてあった。彼は露西亜物《ロシアもの》の翻訳だと教えてくれた。僕は薄い書物を手にしながら、重ねてその梗※[#「(漑−さんずい)/木」、第3水準1−86−3]《こうがい》を彼に尋ねた。彼は梗※[#「(漑−さんずい)/木」、第3水準1−86−3]などはどうでも好いと答えた。そうして中に
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