のみか、かえってわが知り合の人の所へ嫁入られたのを根に、新婚の夫を殺そうと企てた。ただしただ殺すのではない。女房が見ている前で殺さなければ面白くない。しかもその見ている女房が彼を下手人と知っていながら、いつまでも指を銜《くわ》えて、彼を見ているだけで、それよりほかにどうにも手のつけようのないという複雑な殺し方をしなければ気がすまない。彼はその手段《てだて》として一種の方法を案出した。ある晩餐《ばんさん》の席へ招待された好機を利用して、彼は急に劇《はげ》しい発作《ほっさ》に襲《おそ》われたふりをし始めた。傍《はた》から見るとまるで狂人としか思えない挙動をその場であえてした彼は、同席の一人残らずから、全くの狂人と信じられたのを見すまして、心の内で図に当った策略を祝賀した。彼は人目に触れやすい社交場|裡《り》で、同じ所作《しょさ》をなお二三度くり返した後、発作のために精神に狂《くるい》の出る危険な人という評判を一般に博し得た。彼はこの手数《てかず》のかかった準備の上に、手のつけようのない殺人罪を築き上げるつもりでいたのである。しばしば起る彼の発作が、華《はな》やかな交際の色を暗く損《そこ》な
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