ど》まる事を肯《がえ》んじた。僕はなぜ母が彼らの勧めるままに、人を好《よ》く落ちついているのだろうと、鋭どく磨《と》がれた自分の神経から推して、悠長《ゆうちょう》過ぎる彼女をはがゆく思った。
 高木にはそれから以後ついぞ顔を合せた事がなかった。千代子と僕に高木を加えて三《み》つ巴《ともえ》を描いた一種の関係が、それぎり発展しないで、そのうちの劣敗者に当る僕が、あたかも運命の先途《せんど》を予知したごとき態度で、中途から渦巻《うずまき》の外に逃《のが》れたのは、この話を聞くものにとって、定めし不本意であろう。僕自身も幾分か火の手のまだ収まらないうちに、取り急いで纏《まとい》を撤したような心持がする。と云うと、僕に始からある目論見《もくろみ》があって、わざわざ鎌倉へ出かけたとも取れるが、嫉妬心《しっとしん》だけあって競争心を有《も》たない僕にも相応の己惚《うぬぼれ》は陰気な暗い胸のどこかで時々ちらちら陽炎《かげろ》ったのである。僕は自分の矛盾をよく研究した。そうして千代子に対する己惚《うぬぼれ》をあくまで積極的に利用し切らせないために、他の思想やら感情やらが、入れ代り立ち替り雑然として吾心
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