せさした。申し合せたように、舟中《ふねじゅう》立ち上って籃《かご》の内を覗くと、七八寸もあろうと云う魚が、縦横に狭い水の中を馳《か》け廻っていた。その或ものは水の色を離れない蒼《あお》い光を鱗《うろこ》に帯びて、自分の勢で前後左右に作る波を肉の裏に透《とお》すように輝やいた。
「一つ掬《すく》って御覧なさい」
高木は大きな掬網《たま》の柄《え》を千代子に握らした。千代子は面白半分それを受取って水の中で動かそうとしたが、動きそうにもしないので、高木は己《おの》れの手を添えて二人いっしょに籃《かご》の中を覚束《おぼつか》なく攪《か》き廻した。しかし魚は掬《すく》えるどころではなかったので、千代子はすぐそれを船頭に返した。船頭は同じ掬網《たま》で叔父の命ずるままに何疋でも水から上へ択《よ》り出した。僕らは危怪《きかい》な蛸の単調を破るべく、鶏魚《いさき》、鱸《すずき》、黒鯛《くろだい》の変化を喜こんでまた岸に上《のぼ》った。
二十五
僕はその晩一人東京へ帰った。母はみんなに引きとめられて、帰るときには吾一か誰か送って行くという条件の下《もと》に、なお二三日鎌倉に留《と
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