を奪いにくる煩《わず》らわしさに悩んだのである。
彼女は時によると、天下に只一人《ただいちにん》の僕を愛しているように見えた。僕はそれでも進む訳に行かないのである。しかし未来に眼を塞《ふさ》いで、思い切った態度に出ようかと思案しているうちに、彼女はたちまち僕の手から逃れて、全くの他人と違わない顔になってしまうのが常であった。僕が鎌倉で暮した二日の間に、こういう潮《しお》の満干《みちひ》はすでに二三度あった。或時は自分の意志でこの変化を支配しつつ、わざと近寄ったり、わざと遠退《とおの》いたりするのでなかろうかという微《かす》かな疑惑をさえ、僕の胸に煙らせた。そればかりではない。僕は彼女の言行を、一《いつ》の意味に解釈し終ったすぐ後《あと》から、まるで反対の意味に同じものをまた解釈して、その実《じつ》どっちが正しいのか分らないいたずらな忌々《いまいま》しさを感じた例《ためし》も少なくはなかった。
僕はこの二日間に娶《めと》るつもりのない女に釣られそうになった。そうして高木という男がいやしくも眼の前に出没する限りは、厭《いや》でもしまいまで釣られて行きそうな心持がした。僕は高木に対して競
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