高い幟《のぼり》の棒が二本僕の眼を惹《ひ》いた。吾一はどこからか磯《いそ》へ打ち上げた枯枝を拾って来て、広い砂の上に大きな字と大きな顔をいくつも並べた。
「さあ御乗り」と坊主頭の船頭が云ったので、六人は順序なくごたごたに船縁《ふなべり》から這《は》い上った。偶然の結果千代子と僕は後《あと》のものに押されて、仕切りの付いた舳《へさき》の方に二人|膝《ひざ》を突き合せて坐った。叔父は一番先に、胴《どう》の間《ま》というのか、真中の広い所に、家長《かちょう》らしく胡坐《あぐら》をかいてしまった。そうして高木をその日の客として取り扱うつもりか、さあどうぞと案内したので、彼は否応《いやおう》なしに叔父の傍《そば》に座を占めた。百代子と吾一は彼らの次の間《ま》と云ったような仕切の中に船頭といっしょに這入った。
「どうですこっちが空《す》いてますからいらっしゃいませんか」と高木はすぐ後《うしろ》の百代子を顧《かえり》みた。百代子はありがとうといったきり席を移さなかった。僕は始めから千代子と一つ薄縁《うすべり》の上に坐るのを快く思わなかった。僕の高木に対して嫉妬《しっと》を起した事はすでに明かに自白し
前へ
次へ
全462ページ中360ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
夏目 漱石 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング