いねと云い出した。百代子は、あたしもう御魚なんかどうでも好いから、早く帰りたくなったわと心細そうな声を出した。この時まで双眼鏡で海の方を見ながら、断《た》えず千代子と話していた高木はすぐ後《うしろ》を振り返った。
「何をしているだろう。ちょっと行って様子を見て来ましょう」
彼はそう云いながら、手に持った雨外套《レインコート》と双眼鏡を置くために後《うしろ》の縁を顧《かえり》みた。傍《そば》に立った千代子は高木の動かない前に手を出した。
「こっちへ御出しなさい。持ってるから」
そうして高木から二つの品を受け取った時、彼女は改めてまた彼の半袖姿《はんそですがた》を見て笑いながら、「とうとう蛮殻《ばんから》になったのね」と評した。高木はただ苦笑しただけで、すぐ浜の方へ下りて行った。僕はさも運動家らしく発達した彼の肩の肉が、急いで石段を下りるために手を振るごとに動く様を後から無言のまま注意して眺《なが》めた。
二十三
船に乗るためにみんなが揃《そろ》って浜に下り立ったのはそれから約一時間の後《のち》であった。浜には何の祭の前か過《すぎ》か、深く砂の中に埋《う》められた
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