何を苦しんでわざわざ鎌倉|下《くだ》りまで出かけて来て、狭い蚊帳へ押し合うように寝るんだか、叔父にも吾一にも僕にも説明のしようがなかった。
「これも一興《いっきょう》だ」
 疑問は叔父の一句でたちまち納《おさま》りがついたが、暑さの方はなかなか去らないので誰もすぐは寝つかれなかった。吾一は若いだけに、明日《あした》の魚捕《さかなとり》の事を叔父に向ってしきりに質問した。叔父はまた真面目《まじめ》だか冗談《じょうだん》だか、船に乗りさえすれば、魚の方で風《ふう》を望《のぞ》んで降《くだ》るような旨《うま》い話をして聞かせた。それがただ自分の伜《せがれ》を相手にするばかりでなく、時々はねえ市さんと、そんな事にまるで冷淡の僕まで聴手《ききて》にするのだから少し変であった。しかし僕の方はそれに対して相当な挨拶《あいさつ》をする必要があるので、話の済む前には、僕は当然同行者の一人《いちにん》として受答《うけこたえ》をするようになっていた。僕は固《もと》より行くつもりでも何でもなかったのだから、この変化は僕に取って少し意外の感があった。気楽そうに見える叔父はそのうち大きな鼾声《いびき》をかき始めた
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