き糺《ただ》して見ても判切《はっきり》云えなかったのだから、理由《わけ》は話せない。しかし結果からいうとこうである。――欠点でも母と共に具《そな》えているなら僕は大変|嬉《うれ》しかった。長所でも母になくって僕だけ有《も》っているとはなはだ不愉快になった。そのうちで僕の最も気になるのは、僕の顔が父にだけ似て、母とはまるで縁のない眼鼻立にでき上っている事であった。僕は今でも鏡を見るたびに、器量が落ちても構わないから、もっと母の人相を多量に受け継《つ》いでおいたら、母の子らしくってさぞ心持が好いだろうと思う。
食事の後《おく》れた如《ごと》く、寝る時間も順繰《じゅんぐり》に延びてだいぶ遅くなった。その上急に人数《にんず》が増えたので、床の位置やら部屋割をきめるだけが叔母に取っての一骨折《ひとほねおり》であった。男三人はいっしょに固められて、同じ蚊帳《かや》に寝た。叔父は肥《ふと》った身体《からだ》を持ち扱かって、団扇《うちわ》をしきりにばたばた云わした。
「市《いっ》さんどうだい、暑いじゃないか。これじゃ東京の方がよっぽど楽だね」
僕も僕の隣にいる吾一も東京の方が楽だと云った。それでは
前へ
次へ
全462ページ中346ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
夏目 漱石 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング