ものを知らずにすます事が出来たかも知れない。
 僕は普通の人間でありたいという希望を有《も》っているから、嫉※[#「女+戸」、第3水準1−15−76]心のないのを自慢にしたくも何ともないけれども、今話したような訳で、眼《ま》の当りにこの高木という男を見るまでは、そういう名のつく感情に強く心を奪われた試《ためし》がなかったのである。僕はその時高木から受けた名状しがたい不快を明らかに覚えている。そうして自分の所有でもない、また所有する気もない千代子が源因で、この嫉※[#「女+戸」、第3水準1−15−76]心が燃え出したのだと思った時、僕はどうしても僕の嫉※[#「女+戸」、第3水準1−15−76]心を抑《おさ》えつけなければ自分の人格に対して申し訳がないような気がした。僕は存在の権利を失った嫉※[#「女+戸」、第3水準1−15−76]心を抱《いだ》いて、誰にも見えない腹の中で苦悶《くもん》し始めた。幸い千代子と百代子が日が薄くなったから海へ行くと云い出したので、高木が必ず彼らに跟《つ》いて行くに違ないと思った僕は、早く跡に一人残りたいと願った。彼らははたして高木を誘った。ところが意外にも彼は
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