聞いた二人は、驚ろいたような顔をしてとめにかかった。ことに千代子は躍起《やっき》になった。彼女は僕を捉《つら》まえて変人だと云った。母を一人残してすぐ帰る法はないと云った。帰ると云っても帰さないと云った。彼女は自分の妹や弟に対してよりも、僕に対しては遥《はる》かに自由な言葉を使い得る特権を有《も》っていた。僕は平生から彼女が僕に対して振舞うごとく大胆に率直に(ある時は善意ではあるが)威圧的に、他人に向って振舞う事ができたなら、僕のような他に欠点の多いものでも、さぞ愉快に世の中を渡って行かれるだろうと想像して、大いにこの小さな暴君《タイラント》を羨《うらや》ましがっていた。
「えらい権幕《けんまく》だね」
「あなたは親不孝よ」
「じゃ叔母さんに聞いて来るから、もし叔母さんが泊って行く方がいいって、おっしゃったら、泊っていらっしゃい。ね」
 百代子は仲裁を試みるような口調でこう云いながら、すぐ年寄の話している座敷の方へ立って行った。僕の母の意向は無論聞くまでもなかった。したがって百代子の年寄二人から齎《もた》らした返事もここに述べるのは蛇足《だそく》に過ぎない。要するに僕は千代子の捕虜にな
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