ったのである。
 僕はやがてちょっと町へ出て来るという口実《いいまえ》の下《もと》に、午後の暑い日を洋傘《こうもり》で遮《さえ》ぎりながら別荘の附近を順序なく徘徊《はいかい》した。久しく見ない土地の昔を偲《しの》ぶためと云えば云えない事もないが、僕にそんな寂《さ》びた心持を嬉《うれ》しがる風流があったにしたところで、今はそれに耽《ふけ》る落ちつきも余裕《よゆう》も与えられなかった。僕はただうろうろとそこらの標札を読んで歩いた。そうして比較的立派な平屋建《ひらやだて》の門の柱に、高木の二字を認めた時、これだろうと思って、しばらく門前に佇《たたず》んだ。それから後《あと》は全く何の目的もなしになお緩漫《かんまん》な歩行を約十五分ばかり続けた。しかしこれは僕が自分の心に、高木の家を見るためにわざわざ表へ出たのではないと申し渡したと同じようなものであった。僕はさっさと引き返した。

        十六

 実を云うと、僕はこの高木という男について、ほとんど何も知らなかった。ただ一遍百代子から彼が適当な配偶を求めつつある由を聞いただけである。その時百代子が、御姉さんにはどうかしらと、ちょうど相
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