非いっしょに行けと勧めた。僕は魚の事よりも先刻《さっき》見た浴衣《ゆかた》がけの男の居所が知りたかった。
十五
「先刻誰だか男の人が一人座敷にいたじゃないか」
「あれ高木さんよ。ほら秋子さんの兄さんよ。知ってるでしょう」
僕は知っているともいないとも答えなかった。しかし腹の中では、この高木と呼ばれる人の何者かをすぐ了解した。百代子の学校|朋輩《ほうばい》に高木秋子という女のある事は前から承知していた。その人の顔も、百代子といっしょに撮《と》った写真で知っていた。手蹟《しゅせき》も絵端書《えはがき》で見た。一人の兄が亜米利加《アメリカ》へ行っているのだとか、今帰って来たばかりだとかいう話もその頃耳にした。困らない家庭なのだろうから、その人が鎌倉へ遊びに来ているぐらいは怪しむに足らなかった。よしここに別荘を持っていたところで不思議はなかった。が、僕はその高木という男の住んでいる家を千代子から聞きたくなった。
「ついこの下よ」と彼女は云ったぎりであった。
「別荘かい」と僕は重ねて聞いた。
「ええ」
二人はそれ以外を語らずに座敷へ帰った。座敷では母と叔母がまだ海の色がど
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