また傍《そば》にある鏡台の抽出《ひきだし》から櫛《くし》を出してくれた。僕が鏡の前に坐《すわ》って髪を解かしている間、彼女は風呂場の入口の柱に身体《からだ》を持たして、僕の濡《ぬ》れた頭を眺めていたが、僕が何も云わないので、向うから「悪い水でしょう」と聞いた。僕は鏡の中を見たなり、どうしてこんな色が着いているのだろうと云った。水の問答が済んだとき、僕は櫛を鏡台の上に置いて、タオルを肩にかけたまま立ち上った。千代子は僕より先に柱を離れて座敷の方へ行こうとした。僕は藪《やぶ》から棒に後《うしろ》から彼女の名を呼んで、叔父はどこにいるかと尋ねた。彼女は立ち止まって振り返った。
「御父さんは四五日前ちょっといらしったけど、一昨日《おととい》また用が出来たって東京へ御帰りになったぎりよ」
「ここにゃいないのかい」
「ええ。なぜ。ことによると今日の夕方|吾一《ごいち》さんを連れて、またいらっしゃるかも知れないけども」
 千代子は明日《あした》もし天気が好ければ皆《みんな》と魚を漁《と》りに行くはずになっているのだから、田口が都合して今日の夕方までに来てくれなければ困るのだと話した。そうして僕にも是
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