うちに白い浴衣《ゆかた》を着た男のいるのを見て、多分叔父が昨日《きのう》あたり東京から来て泊ってるのだろうと思った。ところが奥にいるものがことごとく僕らを迎えるために玄関へ出て来たのに、その男だけは少しも顔を見せなかった。もちろん叔父ならそのくらいの事はあるべきはずだと思って、座敷へ通って見ると、そこにも彼の姿は見えなかった。僕はきょろきょろしているうちに、叔母と母が汽車の中はさぞ暑かったろうとか、見晴しの好い所が手に入《い》って結構だとか、年寄の女だけに口数《くちかず》の多い挨拶《あいさつ》のやりとりを始めた。千代子と百代子は母のために浴衣を勧めたり、脱ぎ捨てた着物を晒干《さぼ》してくれたりした。僕は下女に風呂場へ案内して貰って、水で顔と頭を洗った。海岸からはだいぶ道程《みちのり》のある山手だけれども水は存外悪かった。手拭《てぬぐい》を絞《しぼ》って金盥《かなだらい》の底を見ていると、たちまち砂のような滓《おり》が澱《おど》んだ。
「これを御使いなさい」という千代子の声が突然|後《うしろ》でした。振り返ると、乾いた白いタオルが肩の所に出ていた。僕はタオルを受取って立ち上った。千代子は
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