に乗った。母は車の動き出す時、隣に腰をかけた僕に、汽車も久しぶりだねと笑いながら云った。そう云われた僕にも実は余り頻繁《ひんぱん》な経験ではなかった。新らしい気分に誘われた二人の会話は平生《ふだん》よりは生々《いきいき》していた。何を話したか自分にもいっこう覚えのない事を、聞いたり聞かれたりして断続に任せているうちに車は目的地に着いた。あらかじめ通知をしてないので停車場《ステーション》には誰も迎《むかえ》に来ていなかったが、車を雇うとき某《なにがし》さんの別荘と注意したら、車夫はすぐ心得て引き出した。僕はしばらく見ないうちに、急に新らしい家の多くなった砂道を通りながら、松の間から遠くに見える畠中《はたなか》の黄色い花を美くしく眺《なが》めた。それはちょっと見るとまるで菜種の花と同じ趣《おもむき》を具《そな》えた目新らしいものであった。僕は車の上で、このちらちらする色は何だろうと考え抜いた揚句《あげく》、突然|唐茄子《とうなす》だと気がついたので独《ひと》りおかしがった。
車が別荘の門に着いた時、戸障子《としょうじ》を取り外《はず》した座敷の中に動く人の影が往来からよく見えた。僕はその
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