こしぐろう》をするからである。千代子が風のごとく自由に振舞うのは、先の見えないほど強い感情が一度に胸に湧《わ》き出るからである。彼女は僕の知っている人間のうちで、最も恐れない一人《いちにん》である。だから恐れる僕を軽蔑《けいべつ》するのである。僕はまた感情という自分の重みでけつまずきそうな彼女を、運命のアイロニーを解せざる詩人として深く憐《あわ》れむのである。否《いな》時によると彼女のために戦慄《せんりつ》するのである。

        十三

 須永《すなが》の話の末段は少し敬太郎《けいたろう》の理解力を苦しめた。事実を云えば彼はまた彼なりに詩人とも哲学者とも云い得る男なのかも知れなかった。しかしそれは傍《はた》から彼を見た眼の評する言葉で、敬太郎自身はけっしてどっちとも思っていなかった。したがって詩とか哲学とかいう文字も、月の世界でなければ役に立たない夢のようなものとして、ほとんど一顧に価《あたい》しないくらいに見限《みかぎ》っていた。その上彼は理窟《りくつ》が大嫌《だいきら》いであった。右か左へ自分の身体《からだ》を動かし得ないただの理窟は、いくら旨《うま》くできても彼には用の
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