ない贋造紙幣《がんぞうしへい》と同じ物であった。したがって恐れる男とか恐れない女とかいう辻占《つじうら》に似た文句を、黙って聞いているはずはなかったのだが、しっとりと潤《うるお》った身の上話の続きとして、感想がそこへ流れ込んで来たものだから、敬太郎もよく解らないながら素直に耳を傾むけなければすまなかったのである。
 須永もそこに気がついた。
「話が理窟張《りくつば》ってむずかしくなって来たね。あんまり一人で調子に乗って饒舌《しゃべ》っているものだから」
「いや構わん。大変面白い」
「洋杖《ステッキ》の効果《ききめ》がありゃしないか」
「どうも不思議にあるようだ。ついでにもう少し先まで話す事にしようじゃないか」
「もう無いよ」
 須永はそう云い切って、静かな水の上に眼を移した。敬太郎もしばらく黙っていた。不思議にも今聞かされた須永の詩だか哲学だか分らないものが、形の判然《はっきり》しない雲の峰のように、頭の中に聳《そび》えて容易に消えそうにしなかった。何事も語らないで彼の前に坐《すわ》っている須永自身も、平生の紋切形《もんきりがた》を離れた怪しい一種の人物として彼の眼に映じた。どうしても
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