ない。彼女は美くしい天賦《てんぷ》の感情を、あるに任せて惜気《おしげ》もなく夫の上に注《つ》ぎ込む代りに、それを受け入れる夫が、彼女から精神上の営養を得て、大いに世の中に活躍するのを唯一の報酬として夫から予期するに違いない。年のいかない、学問の乏しい、見識の狭い点から見ると気の毒と評して然《しか》るべき彼女は、頭と腕を挙げて実世間に打ち込んで、肉眼で指《さ》す事のできる権力か財力を攫《つか》まなくっては男子でないと考えている。単純な彼女は、たとい僕のところへ嫁に来ても、やはりそう云う働きぶりを僕から要求し、また要求さえすれば僕にできるものとのみ思いつめている。二人の間に横たわる根本的の不幸はここに存在すると云っても差支《さしつかえ》ないのである。僕は今云った通り、妻《さい》としての彼女の美くしい感情を、そう多量に受け入れる事のできない至って燻《くす》ぶった性質《たち》なのだが、よし焼石に水を濺《そそ》いだ時のように、それをことごとく吸い込んだところで、彼女の望み通りに利用する訳にはとても行かない。もし純粋な彼女の影響が僕のどこかに表われるとすれば、それはいくら説明しても彼女には全く分ら
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