ず》める必要もないから、それを自分だけの感想に止《とど》めないでここに自白するが、一口に云うと、千代子は恐ろしい事を知らない女なのである。そうして僕は恐ろしい事だけ知った男なのである。だからただ釣り合わないばかりでなく、夫婦となればまさに逆にでき上るよりほかに仕方がないのである。
僕は常に考えている。「純粋な感情ほど美くしいものはない。美くしいものほど強いものはない」と。強いものが恐れないのは当り前である。僕がもし千代子を妻にするとしたら、妻の眼から出る強烈な光に堪《た》えられないだろう。その光は必ずしも怒《いかり》を示すとは限らない。情《なさけ》の光でも、愛の光でも、もしくは渇仰《かっこう》の光でも同じ事である。僕はきっとその光のために射竦《いすく》められるにきまっている。それと同程度あるいはより以上の輝くものを、返礼として彼女に与えるには、感情家として僕が余りに貧弱だからである。僕は芳烈な一樽の清酒を貰っても、それを味わい尽くす資格を持たない下戸《げこ》として、今日《こんにち》まで世間から教育されて来たのである。
千代子が僕のところへ嫁に来れば必ず残酷な失望を経験しなければなら
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