》いでおこうとする用心に過ぎなかった。ところがいざ改たまって母にそれを切り出そうとすると、ただ自分の我《が》を通すために、弱い親の自由を奪うのは残酷な子に違ないという心持が、どこにか萌《きざ》すので、ついそれなりにしてやめる事が多かった。もっとも年寄の眉《まゆ》を曇らすのがただ情《なさけ》ないばかりでやめたとも云われない。これほど親しい間柄でさえ今まで思い切ったところを千代子に打ち明け得なかった母の事だから、たといこのままにしておいても、まあ当分は大丈夫だろうという考が、母に対する僕を多少|抑《おさ》えたのである。
それで僕は千代子に関して何という明瞭《めいりょう》な所置も取らずに過ぎた。もっともこういう不安な状態で日を送った時期にも、まるで田口の家と打絶えた訳ではなかったので、会《たま》には単に母の喜こぶ顔を見るだけの目的をもって内幸町まで電車を利用した覚さえあったのである。そういうある日の晩、僕は久しぶりに千代子から、習い立ての珍らしい手料理を御馳走《ごちそう》するからと引止められて、夕飯の膳《ぜん》についた。いつも留守《るす》がちな叔父がその日はちょうど内にいて、食事中例の気作
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