》ができていた。母もその時にはただ遠くから匂わせるだけでなくて、自分の希望に正当の形式を与える事を忘れなかった。僕は何心なく従妹《いとこ》は血属だから厭《いや》だと答えた。母は千代子の生れた時くれろと頼んでおいたのだから貰ったらいいだろうと云って僕を驚ろかした。なぜそんな事を頼んだのかと聞くと、なぜでも私《わたし》の好きな子で、御前も嫌《きら》うはずがないからだと、赤ん坊には応用の利《き》かないような挨拶《あいさつ》をして僕を弱らせた。だんだんそこを押して見ると、しまいに涙ぐんで、実は御前のためではない、全く私のために頼むのだと云う。しかもどうしてそれが母のためになるのか、その理由はいくら聞いても語らない。最後に何でもかでも千代子は厭《いや》かと聞かれた。僕は厭でも何でもないと答えた。しかし当人も僕のところへ来る気はなし、田口の叔父も叔母も僕にくれたくはないのだから、そんな事を申し込むのは止した方が好い、先方で迷惑するだけだからと教えた。母は約束だから迷惑しても構わない、また迷惑するはずがないと主張して、昔《むか》し田口が父の世話になったり厄介《やっかい》になったりした例を数え挙げた。
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