の布巾《ふきん》をかけてだんだん光沢《つや》を出すつもりとも見られる。けれども慈愛に充《み》ちた親としての父を僕に紹介する時には、彼女の態度が全く一変する。平生僕が目《ま》のあたりに見ているあの柔和《にゅうわ》な母が、どうしてこう真面目《まじめ》になれるだろうと驚ろくくらい、厳粛な気象《きしょう》で僕を打ち据《す》える事さえあった。が、それは僕が中学から高等学校へ移る時分の昔である。今はいくら母に強請《せび》って同じ話をくり返して貰《もら》っても、そんな気高《けだか》い気分にはとてもなれない。僕の情操はその頃から学校を卒業するまでの間に、近頃の小説に出る主人公のように、まるで荒《すさ》み果てたのだろう。現代の空気に中毒した自分を呪《のろ》いたくなると、僕は時々もう一遍で好いから、母の前でああ云う崇高な感じに触れて見たいという望《のぞみ》を起すが、同時にその望みがとても遂《と》げられない過去の夢であるという悲しみも湧《わ》いて来る。
母の性格は吾々《われわれ》が昔から用い慣れた慈母という言葉で形容さえすれば、それで尽きている。僕から見ると彼女はこの二字のために生れてこの二字のために死ぬ
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