なに君は知らない事だが、今までもそう云う話は何度もあったんだよ」とさも陳腐《ちんぷ》らしそうに説明して聞かせた。
「君は貰《もら》う気はないのかい」
「僕が貰うように見えるかね」
話しはこんな風に、御互で引き摺《ず》るようにしてだんだん先へ進んだが、いよいよ際《きわ》どいところまで打ち明けるか、さもなければ題目を更《か》えるよりほかに仕方がないという点まで押しつめられた時、須永はとうとう敬太郎に「また洋杖《ステッキ》を持って来たんだね」と云って苦笑した。敬太郎も笑いながら縁側《えんがわ》へ出た。そこから例の洋杖を取ってまた這入って来たが、「この通りだ」と蛇《へび》の頭を須永に見せた。
三
須永《すなが》の話は敬太郎《けいたろう》の予期したよりも遥《はる》かに長かった。――
僕の父は早く死んだ。僕がまだ親子の情愛をよく解しない子供の頃に突然死んでしまった。僕は子がないから、自分の血を分けた温《あた》たかい肉の塊《かたま》りに対する情《なさけ》は、今でも比較的薄いかも知れないが、自分を生んでくれた親を懐《なつ》かしいと思う心はその後《ご》だいぶ発達した。今の心をそ
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