》になった」
須永の話
一
敬太郎《けいたろう》は須永《すなが》の門前で後姿《うしろすがた》の女を見て以来、この二人を結びつける縁《えん》の糸を常に想像した。その糸には一種夢のような匂《におい》があるので、二人を眼の前に、須永としまた千代子として眺《なが》める時には、かえってどこかへ消えてしまう事が多かった。けれども彼らが普通の人間として敬太郎の肉眼に現実の刺戟《しげき》を与えない折々には、失なわれた糸がまた二人の中を離すべからざる因果《いんが》のごとくに繋《つな》いだ。田口の家《うち》へ出入《でいり》するようになってからも、須永と千代子の関係については、一口《ひとくち》でさえ誰からも聞いた事はなし、また二人の様子を直《じか》に観察しても尋常の従兄弟《いとこ》以上に何物も仄《ほの》めいていなかったには違ないが、こういう当初からの聯想《れんそう》に支配されて、彼の頭のどこかに、二人を常に一対《いっつい》の男女《なんにょ》として認める傾きを有《も》っていた。女の連添《つれそ》わない若い男や、男の手を組まない若い女は、要するに敬太郎から見れば自然を損《そこ
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